アクチュアリー採用問題(ソニー生命の試験問題)

2017年3月7日雑記帳

ネットを漂流していたら、新卒採用に使われたアクチュアリー問題が出てきました。

アクチュアリー試験数学の研究

アクチュアリーの方がソニー生命の試験問題を解いて,自身の答えをブログにアップしているようです.

金融方面の数学って、測度論的確率論を用いた証明レベルの数学を要求されるのかなぁなんて思ってましたけれど、新卒採用の数学はそうでもないんですね。

大問3は、リンク先の方法でも解けるのですが、エルミート行列の固有値の問題でモロにミニマックス定理っぽい感じなので、私ならそれを利用して解いてみたいです。

大問3の(1)は何気に(2)の誘導になっているという問題。エルミート行列の二次形式は、固有値と固有ベクトルに深く関係してるので、レーリー商を使ったものを書いてみます。

本質的にはリンク先と同じことをしているのですけれども

大問3

===(1)===

リンク先にあるように固有方程式を解けば

固有値:1, -1/2 , -1/2

===(2)===

レーリー商をR_{A}(x) := \dfrac{x^{\sf{T}}Ax}{x^{\sf{T}}x}により表記する。

Aの固有値\lambdaに対応する固有ベクトルがvの時,レイリー商R_{A}(x)

(1)   \[R_{A}(v) = \lambda\]

となることに注意する。

二次形式x^{\sf{T}}Axに関して、明らかに

(2)   \[x^{\sf{T}}Ax = \|x\|^2 R_{A}(x) = R_{A}(x) \ \ \ (\because \|x \| = 1)\]

が成り立つ。

ここで、行列A \in \mathbb{R}^{3\times 3}の固有値を大きい順に\lambda_{3} \geq \lambda_{2} \geq \lambda_{1}とおき、それぞれの固有値に対応する固有ベクトルをv_{3},v_{2},v_{1}とおく(Aは対称行列であることから実数固有値を持つため,不等号を用いても問題ない)。

ただし、各i \in \{1,2,3\}についてノルムが\|v_{i}\|=1と正規化されているものとする。

ここで,実対称行列Aを対角化する直交行列Pを用いてx = Pyによる座標変換を考える.

すると

    \[\lambda _{1} = \dfrac{\lambda _{1}\| y\|}{\| y \|} \leq \dfrac{y^{\sf{T}}P^{-1}APy}{\|y \|} = R_{A}(x)\leq \dfrac{\lambda _{3}\| y\|}{\| y \|} = \lambda _{3}\]

が成り立つことから,式(2)に注意して、\|x \| = 1のもとで

(3)   \[\lambda _{1} \leq R_{A}(x) = x^{\sf{T}}Ax \leq \lambda _{3}\]

が成立する.

(1),式(3)から

  • 最大値:R_{A}(v_{3}) = \lambda _{3}
  • 最小値:R_{A}(v_{1}) = \lambda _{1}

であることがわかる.

よって

  • 最大値:\lambda_{3} = 1\ \ (x = v_{3}の時に成立)
  • 最小値:\lambda_{1} = -1/2\ \ (x = v_{1}の時に成立)

である.

固有ベクトルは

    \[v_{3} = \dfrac{1}{\sqrt{3}}\begin{bmatrix} 1 \\ 1 \\ 1\end{bmatrix}\]

    \[v_{1} = \dfrac{1}{\sqrt{(a+b)^2+a^2+b^2}}\begin{bmatrix} a+b \\ -a \\ -b\end{bmatrix}\]

と与えることができる。ただし,a, b \in \mathbb{R}であり同時に0にはならないものとする。

以上

冗長に書きすぎた感がありますが…。レイリー商知っていれば、問(1)解けた時点で、問(2)は解けたも同然なんですよね。微積分の言葉で言えば、ラグランジュの未定乗数法使ってるのと同じですね。

結局レイリー商って、ベクトルxとベクトルAxの間の角度を\thetaとしたとき、Axからxへ正射影落として、その射影の長さ\|Ax\|\cos \theta と \|x\|の比を考えているようなものですよね…。ということは,xに固有ベクトルを取ったときはxAxの方向が一緒なので、xAxの比(伸び率)である固有値がレーリー商にモロに出てくるのは感覚的には割りと納得がいくことのように思えます。

x^{\sf{T}}Ax = cを楕円の方程式とみればもっと感覚的に明らかかも。楕円面と単位円が内接する時に最小値をとるはずなので、明らかに長軸の方向(最小固有値に対する固有ベクトルの方向)で最小値をとるはずですし。楕円面と単位円が外接する時の外接点は、短軸の方向になるはずなのだから、最大固有値に対する固有ベクトル方向で最大値をとるはず。

閑話休題1:制御と行列レイリー商って相性良さそう

そういえば随伴基底で作られた行列レーリー商がAの不変部分空間になってることが、シルベスタ方程式に関わって来た時に、証明読みながらちょっと考えてたことですが…

この前、対称行列の部分空間に関する断面のサイトをみていて、こういう線形代数と多様体が関係していると初めて知ったのですが、サイトに記載されているStiefel多様体って普通の基底ですし、射影という概念はなにげに制御の分野でもよく出てきますよね。基底変換すれば行列レイリー商の形は、ブロック分割されたA行列の左上や右下によく出てきますし。

Shur補元ってロバスト制御あたりにも用いられますが、線形システム解析系の論文で出てくるsingularly perturbed systemって、ここに出てくるShur補元そのものじゃないですか。ということは、singularly-perturbed systemって、意味的なだけじゃなくて行列構造的にも、全体のダイナミクスを保存するような部分空間への射影と、その補空間への射影(すなわち、近似してしまった速いダイナミクスが有する個性のようなダイナミクス)がどっかにある気がするんですよね。

もし特異摂動系の退化システムがそうなっていないのなら、システムの大体のダイナミクスを保存しているような部分空間と、それの直交補空間へシステムを直和分解するようなことをすることはできないだろうか。良い感じの部分空間を作ってそこにシステムを直交射影させるようなことをすれば、なんとなーくいける気がするんだけれども。直交補空間へ射影されたものをどうするかに関してはを切り捨てるか… あるいは特異摂動っぽく静的なシステムとみなしてしまうか。なんか面白い性質がありそうだけどなぁ

閑話休題2:固有方程式を解かずに固有値を求めたいな

ところでこの問題でAを二重確率行列にしているのは、推移行列としてマルコフ連鎖を考えることが裏に隠れているのだろうか….

なんとなくだけど、これって固有方程式とかなくても固有値を簡単に求められそうな気がするんですが、その場合感覚的に固有値-1/2ってどうやって導いてくるんでしょう。

固有ベクトルがわかりやすいので、それを見つけてしまえばすぐだけれど…。

固有方程式をたてなくても、各列(行)の和が1だから,1を固有値にもつことは見た瞬間にわかりますよね。

直感的にわかりやすそうなマルコフ連鎖で考えると、3つのノードはそれぞれ1/2ずつ状態量を回し合ってるわけだから…。全部が同じ状態(例えば[1/3,1/3,1/3])を初期分布として与えてあげれば、その状態は連鎖によってずーっと変わらないだろうなぁっていうのは直感的にわかる。だからAを見た瞬間に固有値1をとることは割りとすぐわかります…。

直感を優先するならマルコフ連鎖的に考えるのが楽そうですが、どう考えれば、Aの形だけから直感的に固有値 -1/2 をひねり出してこられるかな。うーん、思いつかない。

数学的に考えれば、Aの形だけからペロンフロベニウスの定理的に、この固有値1がペロン根で代数的重複度が1となるので,絶対値が1より小さい値がもうひとつの固有値なのもわかる…。対称行列だから当然ペロン根以外も実数となるわけで、重解なのも割りとすぐわかる….

と長々考えてきたけれど、感覚的ではないけれど変なやり方を思いついた。

この行列って,

    \[\begin{bmatrix}0 & 1/2 & 1/2 \\1/2 & 0 & 1/2 \\1/2 & 1/2 & 0\end{bmatrix}=\dfrac{1}{2}\begin{bmatrix}0 & 1 & 0 \\0 & 0 & 1 \\1 & 0 & 0\end{bmatrix}+\dfrac{1}{2}\begin{bmatrix}0 & 0 & 1 \\1 & 0 & 0 \\0 & 1 & 0\end{bmatrix}\]

こういう風に、順列行列を基底としてみて、この重ねあわせで書けるはずなんですよね。係数の総和は1で。

    \[P1 = \begin{bmatrix}0 & 1 & 0 \\0 & 0 & 1 \\1 & 0 & 0\end{bmatrix},\ P2=\begin{bmatrix}0 & 0 & 1 \\1 & 0 & 0 \\0 & 1 & 0\end{bmatrix}\]

としてみると、この2つの順列行列P1,P2って今3次元で。でもって、マルコフ連鎖的に考えてもこの順列行列は3周期でくるくる回るわけだから,各P_{i}の固有値は複素空間上でe^{i0},e^{i\frac{2}{3}\pi },e^{i\frac{4}{3}\pi}にあることが明らか。P_{i}みたいに既約(強連結グラフ)で非負行列で、周期kで元に戻る行列の固有値って、2\pi /k間隔にくるくる回ったところに配置されてるんですよね。でもって当然それぞれ直交行列で、P1^{\sf{T}} = P2だからお互い逆にくるくる回ってるはず。だから実数-1/2が出てくることは固有方程式解かなくてもすぐにわかるなぁと。

無理やりすぎかな…